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American Society of Appraisers (ASA)の教育研修プログラム

諸外国に存在する各VPOの活動内容はそれぞれ異なる。国際的な団体もあれば、国レベルの団体もある。評価対象物も幅広い資産・負債に着目する団体もあれば、特に不動産に関しては特定の資産に特化した団体もある。また、重点取り組み事項も、評価基準の策定、教育研修の実施、資格制度の運用等、VPOによって異なる。


(1) American Society of Appraisers (ASA)とは

本編においては、American Society of Appraisers (ASA)に焦点を当て、とりわけ教育研修制度に着目したいが、まずはASAの概要から解説する。ASAは1930年代から存在した前身の2団体の統合に伴い、1952年に設立された。非営利団体で幅広い対象物の評価人が集う団体を標榜してきた経緯があり、個人メンバーで形成される。活動は北米主体で、50程度の主要都市にChapterが存在し、これらが北米で3つのRegionに束ねられ、日本、欧州、豪州や香港といった北米以外のChapter/BranchはRegion4と言われる国際Regionに位置づけられる。

 

ASAは北米で唯一の評価団体ではない。複数の団体に関する記載は割愛するが、The Appraisal Foundationに関しては言及させて頂く。米国版のバブル崩壊としては80年代の住宅ローン問題が挙げられる。預金を集め、住宅ローンに特化した運用を生業としていたSavings & Loan Association (貯蓄貸付組合)の不良債権が大きな社会問題となった一因は統一的な評価基準の欠落にあったという政府見解に基づき、1986年にASAを含む9団体がThe Appraisal Foundationを立ち上げ、1987年にUniform Standards of Professional Appraisal Practice(USPAP)が統一評価基準として策定され、1989年には政府がFoundationの鑑定基準にお墨付きを与える法整備がなされている。今となっては、USPAPは米国以外の法的拘束力がない国においても広く参照される基準となっている。

 


(2) ASAの研修プログラム

上記の経緯を踏まえてFoundationが基準主体、ASAが教育主体という棲み分けが成立したと言えるかも知れないが、ASAは他の評価団体と比べてもとりわけ教育熱心という印象がある。幅広い評価対象物に従事する評価人を支援する団体とあり、教育研修制度も同様に広範囲におよび、以下の6つのカリキュラムが存在する:

  • Appraisal Review & Management (ARM)
  • Business Valuation (BV)
  • Gems & Jewelry (GJ)
  • Machinery & Technical Specialties (MTS)
  • Personal Property (PP)
  • Real Property (RP)

BV領域=事業価値評価とRP=不動産評価に最も馴染みがある読者が多いと思われる。なお、MTS=動産評価は今後日本でも動産担保等の普及に伴いニーズが増える領域と思料する。これらの領域をB2Bと表現するのであれば、GJやPPはB2Cと捉えられるかも知れない。質屋や古物商等が扱うような対象物と言えるかも知れないが、例えば着物が質草として庶民にとって重要な役割を果たしていた時代もそう遠い過去の話ではない。

 

また、ARMも面白い位置づけにある。他のカリキュラムは特定の対象物に焦点を当て、評価実施者のための研修と言えるのに対し、ARMは他者が実施した評価の蓋然性の検討に焦点を当てたカリキュラムとなる。例えば会計監査において実施された減損検討の評価を監査補助者として閲覧することもあれば、訴訟や仲裁・調停の局面において他者が実施した評価を閲覧することもある。このような状況においては、評価結果のみならず評価の過程も吟味する必要がある。評価業務のスコープ設定は評価の目的と照らして適切と思えるか?評価に必要となるデータが十分収集されているか?事業計画等、必然的に主観的となる情報に関しては十分な蓋然性検討がなされているか?評価人は対象物や対象業界に関して十分な知見を有するか?評価報告書に網羅性があるか、そもそも網羅性の有無はどのような基準で検討するのか?実に興味深い論点が盛りだくさんである。まだ日本においては評価基準日、価値の定義、価値のレベルといった基礎的な要素において不備が見受けられる事も珍しくなく、ARMカリキュラムで養われる知見は非常に有意義であると思慮する。

 

各カリキュラムの構成であるが、4つの基礎コース(200番台コース)で構成されている場合が多い。BVを例にとるとBV201-BV204が基礎コースとなり、各コースを受講し、コース毎の試験に合格し、USPAP試験にも合格(国際メンバーは免除)、必要な実務経験を有するとBVの資格が付与される。2年の経験を有する者はAM (=Accredited Member)の資格が付与され、5年の経験及び自身が実施した評価報告書のサンプルの提出を経てASA (=Accredited Senior Appraiser)の資格が付与される。なお、基礎コース以外にも初歩的なコース(100番台コース)やAdvanced Topicsのコース(300番台コース)も存在する。例えば、BV101の初歩コースや、BV301=無形資産がこれらに該当する。また、国際的な整合性の取り組みとしてIIBV (International Institute of Business Valuers)のIIBV101-104とBV201-204は互換性を持たせている。

 

BV以外のカリキュラムも基本は4部構成となる。なお、MTSに関しては対象物別に多くの固有要素があり、Advanced Topicsとして飛行機、船舶、鉱山といった多彩なメニューが準備されている。なお、RPに関しては不動産関連では他の評価団体も存在するためか、カリキュラムはより限定的な内容となっている。

 

研修は従来、各Chapterにおいて講義形式で行われているのが主流であったが、最近の潮流としてオンライン等での受講も可能となっている。


(3) Continuing Professional Education(CPE)、倫理

資格付与に際して避けられないのがCPE (Continuing Professional Education)と倫理となる。公認会計士を含め、専門資格を有する方には馴染みがある課題となる。だいぶ前に資格を取得した場合には後に知識が陳腐化する懸念もあり、CPEは理に適った学習と言える。されど、評価にしても、監査にしても基礎は大きく変わるものではない傍ら、実務における目まぐるしい進歩は容易に教育制度に反映できるものではないという悩みがある。

 

倫理に関しても、有資格者の資質や成果物に疑義がある場合には通報窓口や調査制度が必要性になるという考えに意義を唱えるものではないが、守秘義務の維持や悪用等、留意すべき事項も多く存在する。


(4) 日本VPOにおける示唆

日本でのVPO設立の意義を検討する上でVPOが果たす役割の整理は重要な検討課題となる。基準策定に重きを置くのか、ここは国際基準を流用し教育研修を重視すべきか?研修を実施するのであれば資格付与は?そうするとCPEや倫理は?ASAの現状や経緯はこれらの検討において重要な示唆を与えてくれ、先進国におけるVPOの姿として参照すべき一つのロール・モデルとなる。